栗原心愛ちゃんが虐待され命を落としてしまった事件において、柏児童相談所の対応が問題となっています。
話題に上がっている、児童相談所の問題点は、主に下記です。
- 心愛ちゃんが必死で虐待を訴えた書いたアンケートを父親に渡してしまった
- 虐待が改善されていないにも関わらず父親の親族宅に心愛ちゃんを返してしまった
- 一時保護を解除した当時の柏児童相談所・奥野智禎前所長は「記憶がない」と発言
しかし、本当に児童相談所は機能していなかったのでしょうか?
アンケートを渡してしまった行為は安易だったとしても、一時保護解除や記憶がないことについては、児童相談所の現状を詳しく見ていく必要があります。
そもそも児童相談所が抱えていた案件は1人当たり何件なのか?業務過多に陥っていなかったのか?
そして、心愛ちゃんの件は、所長に報告が上がっていたのか?
それよりも酷いケースが多く、忙殺されかき消されてしまったのか?
もしかしたら、私たちが疑問視している児童相談所の機能は、我々が思っている以上に疲弊しきっていた可能性があります。
今回は、心愛ちゃんの事件を例に、児童相談所の現状について調査していきたいと思います。
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心愛ちゃんと児童相談所の対応をおさらい
まずは、心愛ちゃんを保護し、解除した児童相談所の対応を時系列形式でおさらいします。
日付 | 行動内容 | 備考 |
2017.11.6 | 心愛さんが、アンケートにて父親からの暴力を訴える | |
2017.11.7 | 担任が児童相談所に即連絡し、柏児童相談所が一時保護する。 | |
2017.12..27 | 一時保護解除され、父親の親族宅(祖父母宅)に預けられた。 | 元柏児童相談所所長・奥野智禎氏「目を通していない」と発言 |
2018.1.12 |
両親・小学校校長・市の教育委員会の3者会談を行う。 父親の勇一郎容疑者が柏児童相談所の対応に対し激しく恫喝「名誉毀損で訴えるぞ!」「アンケートを見せろ!」と詰め寄られるが、心愛ちゃんの同意がないため、断る |
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2018.1.15 | 夫婦が心愛ちゃんの同意を持参し、市の教育委員会が父親にアンケートを渡した。 | |
2018.3月上旬 | 心愛さんは父親の祖父母のもとから自宅に戻る。 | 柏児童相談所の判断に基づく |
2018.4月上旬 | 奥野智禎(柏児童相談所元所長)氏に代わり、二瓶一嗣氏が新たに柏児相所長に就任 | 引継ぎの際、心愛ちゃん事件については「特に無いと思う」と発言 |
2019.1.7 | 始業式以降、心愛さんは学校を休む。 | |
2019.1.24 | 心愛さんは自宅浴室で虐待暴行により亡くなる | |
2019.1.25 | 父親である栗原勇一郎容疑者を逮捕 | |
2019.2.4 | 虐待加担の容疑で母親である栗原なぎさ容疑者を逮捕 |
上記のように時系列形式で見ていくと、機能していた箇所もあり、判断が安易では?と思える箇所もあります。
- 2017.11.7 児童相談所が一時保護する。
これについては、担任の判断が素早く、児童相談所も即座に動いて頂いたと評価すべきだと思います。
- 2017.12.27一時保護解除され、父親の親族宅(祖父母宅)に預けられた。
ここで、2か月も経っていない状況で、栗原勇一郎容疑者の言いなりであった父親親族宅に預けるという判断を児童相談所が下します。
この際、当時の署長である奥野智禎氏は、「目を通していない」と発言
何故児童相談所は、ここで勇一郎容疑者に懐柔されている親族宅に戻す判断をしたのか?この判断に至った理由は疑問に上るところです。
- 2018.1.12 両親・小学校校長・市の教育委員会の3者会談を行う。父親の勇一郎容疑者が柏児童相談所の対応に対し激しく恫喝「アンケートを見せろ!」と詰め寄られるが、心愛ちゃんの同意がないため、断る
ここでは、アンケートを渡すよう詰め寄られますが、一度は同意が無いことを理由に断っています。
後に見せてしまうことになりますが、ここでの判断は至極真っ当なものでした。
- 2018.1.15 夫婦が心愛ちゃんの同意を持参し、市の教育委員会が父親にアンケートを渡した。
つい先日、アンケートの提出を拒んだばかりなのに、何故か同意書を以てあっさりとアンケートを渡してしまいます。
ここが今回の児童相談所の対応の焦点ですね。
何故、つい先日まで断っていたアンケートを、同意書を理由に渡してしまったのでしょうか?
しかも、二瓶一嗣所長によると、アンケートが可能性が高いことを、当時の児相は認識しています。
柏児童相談所 二瓶一嗣所長:
(これまでも親が)言わせるというケースは比較的少なくないということから、基本的には父親に書かされている可能性が高いという認識をしていました。
- 2018.3月上旬 心愛さんは父親の祖父母のもとから自宅に戻る。
そして、遂に児童相談所は、十分な虐待再発の可能性を確認しないまま、心愛ちゃんを自宅へ戻すという判断を下します。
しかもこの時児童相談所は、何時心愛さんが親族宅から父親の自宅へ戻ったかを把握していません。
もはや、児相は、心愛ちゃんを親族宅へ戻すという判断をした後は、この案件について実質放置状態だったわけです。
さらに児童相談所は、自宅に戻す決定をした後、心愛さんが自宅に戻った時期を把握していなかったことも明らかになった。
心愛ちゃん事件に見る、柏児相の対応の問題点
ここで、今回の心愛ちゃん事件に対する、柏児相の問題点をリスト化してみます。
- 何故、勇一郎容疑者に懐柔されている親族宅に戻す判断をしたのか?(一時保護解除)
- 同意書が書かされたと認識しながら、アンケートを勇一郎容疑者へ渡す
- 十分な虐待再発の可能性を確認しないまま、心愛ちゃんを自宅へ戻すという判断を下す
この問題点を読み解くにあたって、重要なのが二瓶一嗣所長の記者会見でのコメントです。
上記問題に対する返答は、一貫して『認識していながら、総合的に判断した』です。
記者:
父親と一緒に住んでいないのに、どうして虐待の再発が認められないと言えるのか?千葉県柏児童相談所 二瓶一嗣所長:
学校での適応状態が悪くなかったということで総合的に判断したということになります。
このコメントにある『総合的』というのは実に都合が良い言葉で、何とでも捉えられます。
私は、このコメントが発せられた背景について、正直案件が多すぎて把握しきれてなかったのが現状だと思います。
前所長からも、特に心愛ちゃんについて引継ぎがされていないわけですし、もっと暴力的で緊急度が高い他の案件も多く、忙殺されたのでは?と見ています。
あと、二瓶一嗣所長はあくまでも2018年4月からの就任ですので、多くは元所長の奥野智禎氏の元で判断が実施されています。
しかも、当時の奥野智禎元所長には、心愛ちゃんの案件について報告すら上がっていません。
アンケート自体見るのが初めてというのですから、真実ならばそれだけ案件が多くて、上がりきらなかったと見るべきでしょう。
ということは、心愛ちゃんを自宅に戻す判断に至った真相は、心愛ちゃんの担当者にしかわかりません。
しかし、担当者は表には出てきませんので、当時の児童相談所の現状から、担当者の様子を推測してみます。
児童相談所の現状
児童相談所の職員の仕事内容
まず、児童相談所に関わる仕事を挙げてみます。
- 乳幼児に対する虐待の可能性のある子供の調査←心愛ちゃんのケース
- 虐待された子供に対する施設手続きや里親との調整
- 問題ある行為をした子供の保護や監察施設への振り分け
中でも虐待調査においては、心愛ちゃんのケースのように親からの暴力だけではなく、もっと酷く多種多様に及びます。
- 乳幼児に対する育児放棄
- 身体・精神的な暴力
- 親による犯罪(売春など)の強要
どれも親や兄弟が無自覚に行っている場合があり、しかも乳幼児や母親主体であったりすると、閉ざされた空間の中で行われているため、表には非常に出にくいのです。
そのため気付いた時には、もっとひどい事になっている場合も勿論あります。
むしろ心愛ちゃんのように、自らSOSを発してくれる子供は、分かり易いケースと言えます。
今回の死亡事件にまで至ってしまう虐待は極端なケースではありますが、その寸前というのはかなりの数に上るのです。
児童相談所の職員が抱えている案件数は?
現状、1人当たりの職員が抱えている案件は約50ケース。都市部は100件近く抱えている模様です。
柏児童相談所は、都市部でありマンションが次々と立ち並ぶ住宅街なので、恐らく1人当たり100件近く抱えていたのではないか、と考えられます。
しかも、これは欧米に比べると3倍から4倍の仕事量に当たり、いかに日本の児童福祉施設職員が労働過多であるかを如実に表しています。
現在の児相の1人当たり業務量は約50ケース。都市部では100件近くを担当する職員も珍しくない。
実際に児童福祉司の方はむちゃくちゃ一生懸命やられていて、基本的に欧米に比べると、日本の児童福祉司が抱えているケースというのは100件をはるかに超えていて、欧米の4倍や3倍以上あるという状況で、本当に気の毒なくらいです。目が回る状況です。
非常に神経をすり減らす職業
しかも児童相談所の仕事は、神経も非常にすり減らします。
無論100件の案件があれば、それぞれ背景のケースも100通りありますし、元々抱え過ぎの案件に対して、それぞれ十分に時間を割くことなど不可能なのです。
それに如何せん子供の親権を持つ親相手ですから、下手に踏み込めば親に訴えられてしまい、過度な干渉として悪いのは児童相談所側になってしまいます。
なので、本音は面倒なことに余計な足は踏み込みたくないのです。
そもそも、千葉県の児童相談所がなぜこんな危険な家庭に子どもを戻してしまうのか、うその同意書を見せられても親に指導一つせず、なぜ家に戻してしまうのか、東京都の児童相談所が親から面会拒否されるとなぜ子どもの安否も確認せず引き下がってしまうのかというと、親が怖いからです、親に逆らってトラブルになりたくないからです。
児相は通常「親との信頼関係を優先した」などととってつけたような理由でごまかそうとしますが、本音は正直に話された野田市の職員と同じです。親に逆らってトラブルになりたくない、面倒なことはしたくないというのが本音なのです。
心愛ちゃんの担当者にとっても、それは同じ思いであったことが容易に想像できます。
父親の勇一郎容疑者は、執拗に心愛ちゃんを返すよう訴えていたのですし、名誉棄損などという言葉を使われてしまえば、手を出すのを躊躇してしまう気持ちも理解できます。
そんな状況下において、「心愛ちゃんの同意を得た」「親族宅での生活は安定している」など、たとえ虚言めいた吹き込みであったとしても、それを信じようとしてしまう心理が働いた可能性は十分にあり得ます。
勿論今回の事件において、児相が安易にアンケートを渡したり、父親宅に戻す判断については、責められるべき点があります。
しかし、もし我々が再発の可能性を少なくしようと思うならば、その背景にある児童相談所の現状も知っておく必要があると思うのです。
行政は児童相談所に責任を押し付けっぱなし
また、行政もこのような痛ましい事件の対策に二の足を踏んでいるという事実が忽然としてあります。
事件の真の原因を分析し、児童相談所の職員の実態、心理、本音を理解したうえで、それに応じた対策を講じなければなりません。高知県(平成20年)や大分県(平成24年)は自県で起こった虐待死事件を教訓に、児相、市町村、学校、警察等との全件情報共有と連携した取組を実現しています。
ところが、千葉県や東京都は何度同じ事件を繰り返しても原因に応じた、児相の職員の実態、本音を踏まえた再発防止策を拒否し続けています。そして、それは、厚労省、警察庁も同様です。
何と心愛ちゃん事件が起きた千葉県では、何時まで経っても警察と情報共有すらしない、児相単独に責任を押し付けっぱなしという現状が判明しました。
これでは、今後似たようなケースが見られた場合、また同じことが繰り返されてしまう恐れがあります。
ここは断固として声を上げていく必要がありますね。
高知県の例があるのですから、行政は一歩踏み込んで警察などに協力を促すべきです。
児童相談所だけでは、権限などに限界があるのは分かっていることですから。
まとめ
今回の心愛ちゃん事件においても、児相職員が父親のDV性について見抜き、心愛ちゃんを保護観察施設で保護し続ければ、未然に防げたと思います。
しかし、児相が、安易に父親の言葉を信じてしまった背景には、案件過多、人手不足、権限の制限などがあることも分かりました。
このような事情から、心愛ちゃんを自宅に戻す判断をしてしまった児相を無下に責めることはできないと思います。
いや正確に言うと、責めることはできるのですが、同様なケースが起きた場合、何の対策にもならないのです。
「児相が悪い」「しっかり仕事しろ」
というのは簡単なのですが、そもそも業務過多や権限が無い為に、同じことがまた起きてもおかしくないのです。
今後、同じような事件を防ぐためには、やはり児童相談所の現状を踏まえた上で、警察や自治体、学校など情報を共有して連携した取り組みを実施する必要があります。
それが亡くなった心愛ちゃんの命を無駄にしないためにも最低限出来ることだと思います。